歯科医師になったら多くの先生が開業する。
2018年に厚生労働省が発表した『医師・歯科医師・薬剤師統計の概況調査』によると、歯科医師の85.9%は診療所で働いているようだ。
そのうち代表者として働いている人の割合は55.9%、勤務医として働いている人の割合は30%。
つまり、半数以上は開業する。
歯科医院がコンビニより多いと言われるのも頷ける。
なぜ歯科医師の半数以上が開業するのか?
そもそも開業した方が良いのか?今一度考え直してみたい。
歯科医師は開業したほうがいいのか?
開業した方が良いかどうか?結論、何を求めるかによる と思う。
目標が大事だと思う。
歯科医師の求人は引く手数多で、実際就職に困るということはほとんどないと思う。
一般企業に就職する新卒の割合がどのぐらいかというと、令和4年10月1日現在の状況では、就職内定率は74.1%である。
歯学部を卒業し、無事国家試験に合格した者の中で就職できるのが上記のような数字ってことはまずない。
また、2019年に厚生労働省が実施した『第22回医療経済実態調査』で公表されている歯科診療所の常勤勤務医の年収は5,900,864~6,180,242円らしい。
あくまで平均ではあるし、やはり経験年数によっても給与は上がっていくイメージではあるが。
今の日本で年収約600万といえば、上位6.5%である。
就職率も高く、安定した収入が得られ、あくまで被雇用者なのでリスクも少ない。
【安定】しているのである。
安定を求めるのであれば、勤務医の方が良いと思われる。
それに対して、開業はリスクを伴う。
多額の借金、安定しない収入、今までしたことのない経験の数々・・・
もちろんその対価として、自分のスタイルで診療できる、勤務医よりも高収入になる(可能性)、自分が一番上になるなど。
それにしてはリスクが高い。それなのになぜ安定を捨て、半数以上の歯科医師が開業を目指すのか?
なぜ半数以上の歯科医師が開業するのか?
もちろん、いろんなパターンがあると思う。
自分の好きなスタイルで診療できる、勤務医時代より高収入になる可能性がある、トップに立てるなど。
ここではお金的なことと、それ以外の大きく分けてふたつに分けて考えてみたい。
開業した方が儲かるんでしょ?
開業した方が儲かるんでしょ?って声を聞くが、なぜかそういう認識の人が多いようである。
しかし実際の調査結果では・・・
厚生労働省による調査では、医療法人の院長の平均年収が約1,475万円、個人で開業した歯科医師の平均年収が約1269万円らしい。
先ほど書いた歯科診療所の常勤勤務医の年収は約600万である。ちなみに雇われ院長(自分で開業するのではなく、法人の分院などの院長になること)の年収は約1000万と言われている。
わざわざリスクを犯して、借金をして個人で開業したとして得られる差が約200~800万円。もちろんこれもあくま平均値ではあるが・・・
ある程度年齢を重ねてからであれば尚更で、経験年数に応じて勤務医の先生も給与は平均以上になることも多いと思うが、それを蹴ってなお借金を作って、並の売り上げしか上げれなかったら悲惨である。
開業して法人なりできれば、結構もらえそうじゃないか?と思われるが、個人開業と医療法人との違いについて考えると・・・
まず基本的に歯科医師が開業するとなると、個人での開業をすることになる。その後売り上げが安定して増えてくると、税金も必然的に上がってくる。
どんどん税率が上がっていくので、節税について考え出すと、所得税よりも法人税のほうが安いため、法人化したほうが得だよねってことになる。
では、法人化するかどうかの売上の境界線はといえば、年間売上約7000万円である。
つまり医療法人になっているクリニックは概ね年間7000万円以上売り上げているということであるが、開業している歯科医院全体の中で年間7000万円以上あげている割合は細かい数字はわからないが半分以下だと考えられる。
開業して半分よりも上にいかないと、お金的なメリットはあまりないのである。
お金以外の理由で開業はもちろんアリだが・・・
お金以外の理由としては、自分の好きなスタイルで診療できることも開業のメリットだろう。
勤務医であれば、勤務先の方針に従っていかないといけない以上、必ずしも自分のスタイルと合うとも限らないからである。
ただその場合は自分のスタイルに合う医院に転職すれば済むような気もするのだが。
あとは、周りで開業してる人が増えてきたからとか、親が開業しているからとか、そういう理由も比較的多いと思う。
そう思う理由としては、意外と『なんで開業しようと思ったの?』という当たり前の質問に答えられる人が少ないように思うからである。
また、開業してから『こんなことなら勤務医していた方が良かった・・・』っていう人も少なからずいた。開業後の大変さや苦労は大学では教えてもらえないし、案外そこに気づいていない人も多い。
開業とは結構大変なものである。
ならば、なぜ開業したのか?
なぜ開業したのか?
私は、正直歯科治療が好きで好きでたまらなく、自分の理想的な診療を行いたいがために独立開業したわけではない。
毎日決まった時間に出勤し、長時間同じ場所にいることが好きではない。女性スタッフばかりの環境もかれこれ何年やっても未だに慣れない。
勤務医していたクリニックは自由なスタイルで診療に臨ませてくれていたし、結果さえ出していればお給料も良かった。実際年収は個人開業の院長先生の給料よりもはるかに頂いていた。
スタッフ間のトラブルや、患者とのトラブル、いろんな問題は日々起こるが、結局は院長がケツを拭いてくれる。
そんなめちゃくちゃ安定した状況から、なぜリスクある開業を選んだのか。
それは経営者になりたかったらである。
私の目標として、生涯歯科治療のみを行っていくことを想定していない。
他にもやりたいことはたくさんあるし、そのためにはお金が必要であり、そのためには勤務医では達成することができない、正確には時間がかかりすぎてしまうと考えたからだ。
もちろんリスクは知っていたし、安定を捨てて開業することに怖さもあった。
世の中『No Pain,No Gain』なのである。
ただ、自分の中で勝算もあったため勝負に出たのである。
逆にいえば、勝算がないのに開業することはただのリスクでしかないようにも思う。
もちろん、【確実に、とか絶対に】とかはないが、やはりある程度の自信とその根拠が必要に思う。
よくよく考えておかないといけないこと
勤務医時代は、ほとんど治療のことしか考えていないことが多いように思う。
歯科衛生士さんや歯科技工士さん、受付さんなどスタッフさんって、当たり前のように存在しているように思うが、それが当たり前じゃないということ、来てもらう大変さ、指導やまとめることの大変さなど。
スタッフさんなどの求人のことだけでなく資金繰りや借金のことや税務に関すること、労働基準に関する決まり事など、大学では教えてもらわないことの方が多いぐらいである。
実際自分自身開業するまで、全くわかっておらず、開業してから実践を積み重ねていて、今もなお知らないこともある。
開業するにはそういったことなども、もちろん知っておかないといけない。
あなたの目標は?
開業しようかどうかを考えるのであれば、先ほども書いたように【目標】が大事だと思う。
何を求めるのか?
【安定】を求めるのであれば、勤務医の方が良い。
高い就職率、安定した収入、またリストラもあまり聞いたことないし、とても安定している。
なんとなく開業の方が良さそう、とかなんとなく周りが開業しているから、といった理由で開業すると大変なのだと思う。
まとめ
治療ができたら開業できるわけではない。正確にはできないわけではないが、思っていたのと違う・・・ってことになりかねない。
開業しても半分以上にならないとお金的にはメリットは少なく、それ以外で今まで経験してきていないこともたくさん行っていかないといけないので、正直開業のメリットは少ないようにも思える。
逆に開業でないとできないことももちろんあるが、大変なことも多くそれに見合う対価を得ようと思うと、必然的にある程度の成功がないと精神的にも体力的にもキツイと思う。
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